・ 目次 / 外伝・MaxHeart15話「憧れの先輩は大親友!?」への道 (前のページ/次のページ) ・
五人は、バスケットの相手をしてくれた高校生らにお礼を述べてその場を離れました。
とたんに奈緒が、「おなかすいた~」と空腹を訴えました。
そう言われると、連鎖反応のようになるのは自然なことです。当然のようになぎさが真っ先に答えました。
なぎさ「実はわたしも。よく運動したもんね。それにこのパンの香り」
そう言ってなぎさは、腕に抱えたパンの包みの匂いを体の奥まで吸い込みました。なぎさは我慢できなくなり、
なぎさ「ちょっとそのへんで食べようか?」
ほのかが心配そうな顔で、
ほのか「なぎさ、お母さんから買ってくるように頼まれたんでしょ?」
なぎさ「うん。でも、帰りにもう一回寄るから。それに、少しだけだよ」
ほのか「もう、なぎさの食いしん坊!」
このやり取りを、美羽と奈緒が目を輝かせて見ていました。
美羽「雪城先輩って、美墨先輩に優しいんですねー」
ほのかがちょっと恥ずかしそうに驚きます。
ほのか「そうかしら?そんなことないと思うけど」
でも結局ほのかはなぎさを許す格好となり、公園の一角にある芝生の上にみんなで座って、パンを食べることになりました。
包み紙の上に並べられたパンを囲んで、誰が決めるとはなしに、自然に座る位置が決まって来ました。
左端のいわば上座になぎさが、その隣にほのかが、そしてなぎさの正面に奈緒が、その隣に美羽が、最後に、両方の間に、ひかりちゃんがそれぞれ収まったのでした。
食欲旺盛なのは、やはりバスケで活躍したなぎさと奈緒でした。
なぎさがパンを両手に持って美味しそうに食べるのを見て微笑むほのか、負けじと食べる奈緒を見て笑みを送るひかりちゃん。美羽も少しだけパンをかじっています。
パンを食べ終えた奈緒が、突然なぎさに聞きました。
奈緒「そういえば美墨先輩は、どうやってひかりと知り合ったんですか?」
なぎさはパンを頬張りながら、「う」と気まずそうな反応をします。
今度は美羽が、
美羽「そうそう。雪城先輩も、どこでひかりと知り合ったんですか。部活じゃなさそうだし。すごく興味あるんですけど」
といかにも興味津々の目でほのかを見つめます。
なぎほのは困ってしまいました。まさかプリキュアとシャイニールミナスのつながりだとは言えないし。
美羽と奈緒の視線が今度は、ひかりちゃんに注がれます。ひかりちゃんも俯いたまま黙ってしまいました。
なぎさは、のどにつまりそうになっていたパンをグッと飲み下すと、焦りながら言いました。
なぎさ「あ、あはは。あの、そう、タコカフェだよ」
それを聞いたほのかが、
ほのか「そう!タコカフェっていうたこ焼屋さんでね、ひかりさんと初めて会ったのよね」
奈緒&美羽は、驚愕しました。
奈緒&美羽「タコカフェ!?」
ふたりは、野々宮さんに教えられて、タコカフェに偵察に行き、なぎほのがそこで仲よさそうにたこ焼を食べているのを確かに目撃しました。でも、それとひかりちゃんとどういう関係があるのか。
奈緒はハッと閃きました。
奈緒「あっ、ひかり、もしかして、親戚のたこ焼屋さんて、タコカフェのこと??」
ひかりちゃんは、どうして奈緒がタコカフェを知っているのか不思議でしたけど、とにかく奈緒の推理は当たっていたので、
ひかり「え、ええ」
と認めるしかありませんでした。
なぎさ「えっと、どうしてタコカフェ知ってんの?」
奈緒「あ、それは・・・」
奈緒が言葉に詰まったので、美羽が慌てて代弁します。
美羽「わたしたちの友だちで、その店に行った子がいて、すごく美味しかったっていうから、それで、一度行ってみたいなあって・・・へへ」
なぎさが驚きます。
なぎさ「へえ、そうなんだー。あそこそんなに評判いいんだ。アカネさん、それ聞いたら喜ぶだろうなー」
ほのかがパチンと両手の平を叩いて、
ほのか「そうだ、これから行ってみましょうか」
ひかり「え?」
なぎさ「あ、それいいね。どうせひかりもパンほとんど食べてないし、あなたたちふたりも、まだまだ大丈夫でしょ?」
奈緒「でも、美墨先輩は・・・」
奈緒がパン包みに目を落として、フランスパン以外すべて消えてなくなっているのを気にしました。
ほのかが即座に、
ほのか「あ、ああ、なぎさはこのくらいじゃ足りないから。まだまだ食べられるよ、ね、なぎさ」
なぎさは、ほのかからそこまで大食いだと思われていたのかとショックを受けて、少しギョッとしますが、
なぎさ「う。うん・・まあね」
実際には、ほのかは、奈緒美羽をぜひともタコカフェに連れて行って、確かにそこでひかりちゃんが働いている姿を見せ、自分たちともそこで知り合ったということを証明したくて、なぎさを強引に巻き込もうとしたんですけどね。
タコカフェは、同じ公園の別の一角で店を出していたので、みんなで少し歩くと、ほどなく到着しました。
一同を見たアカネさんが、タコカフェカーの中から出て来ました。
アカネ「あれ、ひかり、フリーマーケット、もう終ったの?なぎさとほのかも一緒?」
ひかり「アカネさん、ただいま。すごく楽しかったです」
アカネ「あと、こちらのふたりは友だち?」
ひかり「そうです。こちらが多端さん、こちらが加賀山さん」
そうやって奈緒美羽を紹介すると、ひかりちゃんは仕事の手伝いをするため、車の中に入って行きました。
なぎほのは、定位置のテーブル席に座りました。
アカネさんは、笑顔でふたりを見つめます。
アカネ「ひかりの従姉妹のアカネです。ひかりがお世話になってます」
と頭を下げました。
年上の女性に頭を下げられて、奈緒と美羽は恐縮してしまい、「あ、どうも」としか言えませんでした。
ひかり「じゃあ、多端さんと加賀山さんは、ここに座って。なにかご注文は?」
ひかりちゃんは、エプロン姿で戻って来てそう言うと、ふたりにメニューを見せました。
奈緒「あ、うん、じゃあわたしはオレンジジュース・・」
美羽「あ、わたしも・・」
ひかり「かしこまりました」
ひかりちゃんはふたりの注文を取って車の中に入って行きました。
なぎさ「あれ、ふたりとも、たこ焼頼まないの?」
ほのか「そうよ。たこ焼を食べに来たんじゃなかったの?」
奈緒「あ、そうだった。ひかり~!」
美羽も、
美羽「ひかり~。戻って来てえ!」
もうひかりちゃんは、ジューサーでオレンジを絞っていて、その機械音のせいで、ふたりの声が聞き取れません。
入り口近くにいたアカネさんのほうが気づきました。
アカネ「ちょっとひかり~。ひかり、ひかりって呼ばれてるよ」
ひかりちゃんが振り返ります。
ひかり「え?」
アカネ「あの、誰だっけ、お友だち」
ひかり「ああ、多端さんと加賀山さん」
アカネ「あ、そうそう、そのふたり・・・」
結局、日が暮れるまでなぎほの奈緒美羽は、タコカフェでいろいろなお話をして、めいめい帰って行きました。
夕方はお客さんが増えたため、ひかりちゃんは、奈緒美羽の相手はほとんど出来ませんでした。
でも、ふたりがなぎほのと楽しげにおしゃべりしている姿を見ながら働くのは、なにか格別な安心感がありました。
みんなが帰って行ったあと、アカネさんがひかりちゃんに言いました。
アカネ「ひかり、いいお友達が出来て、ほんっとによかったねー。それもいっぺんにふたりも」
ひかり「はい」
アカネ「でもさあ、彼女たちがひかりのこと、ひかりって名前で呼んでるんだしさあ、ひかりもさあ、もうちょっとさあ・・・」
ひかりちゃんは、キョトンとした顔をしながら、「はあ」とだけ答えました。
アカネさんは、ひかりちゃんの反応を見て、無理強いはよくないと思ったのか、もうそれ以上は何も言いませんでした。
夜、ひかりちゃんは、部屋で物思いに耽っていました。
たまにほくそえんでみたり、また沈んだような表情になったり、いろいろな考えが去来しているようでした。
ひかり<友だちって何だろう。なぎささんやほのかさんとは違う何か?>
朝、6時ぴったりに目覚めたひかりちゃんは、いつもと同じように学校へ行く準備をしながら、今朝は何かが違うように感じました。
わかりました。昨日、友だちが出来たのでした。
学校に行けば友だちに会える。奈緒と美羽という友だちが、自分を待っている。
それだけで、学校へ行く意味が、今までとはまるで違うように思えたのです。
もちろん、ひかりちゃんは、友だちのとの関係がどういうものなのか、友情とはどんなものなのかということを、具体的にはこれから経験して行くのです。今はまだ入り口のところまで来たにすぎません。
この先、嫌なこと、辛いこともあるかもしれません。
でも、それはそのときに考えればいいことです。少なくとも、今のひかりちゃんにとって、友だちのいる学校は、楽しいことばかりが待っていて、光り輝いているように思えるのです。
鏡の前で、三つ編みをクルクルと巻き、キュッキュッと縛ると、ヘアピンを下からシュッシュッと挿し込みました。
そのときアカネさんから、「そろそろ行くよ~」と声がかかります。
ひかり「は~い!」
タコカフェビーグルの助手席に腰かけたひかりちゃんは、アカネさんに、
ひかり「今朝、クラスの当番なんです。それで、ベローネの坂の下のところで、加賀山さんと多端さんと待ち合わせしてるので、そこで下ろしてもらえますか」
と頼みました。
アカネさんは、「ほら、ひかり。また~・・・」と言いかけて言葉を濁します。
ちょっとだけため息をついてひかりちゃんを見ていましたが、
アカネ「わかった。坂に差し掛かる公園の入り口でいいね」
と言ってエンジンをかけたのでした。
その場所までは、朝のラッシュにも巻き込まれず、予定通りの時刻に着きました。そこにはもう奈緒と美羽が待っていました。
ふたりは車を横に付けたアカネさんに、
奈緒&美羽「おはようございます!」
アカネ「ああ、おはよう。早いねー。なんか朝の当番があるんだって?」
奈緒「はい。朝ごはん抜きで来ました。今、たこ焼ないですよね?」
美羽「奈緒、あるわけないじゃん」
アカネ「さすがに今はないよー。また放課後においでよ。あんたたち一年生でお金少ないだろうし、たまになら奢ってあげるよ」
奈緒「え、いいんですか!」
美羽「奈緒ったら、もうあの後、たこ焼が美味しかったって話ばっかりしてたんですよ」
奈緒「美羽、またわたしだけ食い意地張ってるみたいにー。アカネさん、美羽には奢らなくていいですからね」
美羽「あ、ひど~い」
奈緒「なんだ、やっぱ食べたいんじゃん。もっと素直になりなよ。ひかりを見習ってさあ」
ひかり「え?」
アカネ「え、どういうこと?」
奈緒「ひかりのお弁当、たいていたこ焼入ってるじゃないですか。クラスの子にちょっとからかわれたこともあるんですよ。でも、ひかりは気にしないで堂々と食べてたんですよ。ね、ひかり」
ひかり「?」
アカネ「そんなことあったんだ・・・」
アカネさんは、戸惑うひかりちゃんを慈母のような目で見つめます。
美羽「じゃあ、そろそろ行こうか。アカネさん、今何時ですか」
アカネさんが腕時計を見ます。すっかり話が弾んでしまっているあいだに、10分以上経過していました。
美羽「えっ!もうそんな時間!?やばい、間に合わない。奈緒、急ごう!ひかりも早く、早く」
奈緒「よーし、猛ダッシュだー!」
ひかりちゃんがアカネさんにペコッと挨拶します。
ひかり「それじゃあ、アカネさん、行って来ます」
アカネ「ああ、行っといで。ほらほら、ふたりとももうあんなに先行っちゃってるよ」
振り向いたひかりちゃんが、「あ、ホントだ!」と慌ててふたりの後を追いかけようとします。
アカネ「ひかり、こけちゃだめだよー!」
アカネさんは、ひかりちゃんが走って坂を上る姿を見届けると、車を発進させ、公園の中へと入って行きました。
ベローネの坂のちょうど上りきったあたりを、なぎさとほのかが並んで歩いています。
なぎさ「いや~昨日はもう散々だったよー」
ほのか「どうしたの?」
なぎさ「みんながあんまり喜ぶもんだから、あのあとパン、ぜんぶ振舞っちゃったじゃない、フランスパン残して」
ほのか「うん」
なぎさ「帰りにパン屋さんに寄ったら、ぜんぶ売り切れてて、お母さんにメチャ怒られた」
ほのか「でも、なぎさが一番多く食べてたのよ」
なぎさ「だっておなかすいてたんだもん。あ~あ、プリキュアやってるのも楽じゃないよー」
ちょっと後悔するなぎさ。
そこへ、後ろから誰かが駆け足で上がって来る音が聞こえました。
奈緒と美羽でした。
奈緒は、走りながら後ろの坂下に向かって叫びます。
奈緒「ひかり、早く早く」
それを聞いたなぎさとほのかが立ち止まって振り向くと、奈緒もふたりに気づいて、急ブレーキをかけるように止まります。すぐ後に、美羽も続いて坂のてっぺんに辿り着きました。
奈緒「あ、美墨先輩、きのうはどうもありがとうございました」
美羽「ありがとうございました」
なぎさ「どういたしまして」
奈緒「今日は朝の当番なので、お先に失礼します」
美羽「お先に失礼しまーす」
ふたりはとても礼儀正しくお辞儀をして、再びベローネ側の坂下目指して駆け出しました。
奈緒は、坂を駆け下りながら言い忘れていたように、
奈緒「また奢ってくださ~い」
なぎさ「・・ありえない」
常に奈緒に圧倒されて、なぎさは呆然と、元気のいい後輩を見下ろしています。
と、そのとき、もう一人、後れに後れて坂のてっぺん、なぎほのの横を、激しく息を切らせながら横切ろうとした女生徒がいました。
言うまでもなくひかりちゃんです。
なぎさ「あれ?」
ひかり「あ、ハアハア、おはようございますハアハア」
ほのか「おはよう」
なぎさ「ひかりも当番?」
ひかり「はい、そうなんですハアハア」
ひかりちゃんが立ち止まっていると、坂下から奈緒と美羽が、
奈緒「ひかり、早く、早く」
美羽「先生に怒られちゃうよー」
それを聞いたひかりちゃんが、
ひかり「そ、それじゃ」
と眉毛を八の字にして、なぎほの先輩に別れを告げました。
ひかりちゃんは、昨日までなら、このままふたりと合流して、一緒に学校の門まで歩いていたはずなのです。
それは、なぎほのにとっては、一後輩と普通に登校することでしかありませんでしたけど、ひかりちゃんにとっては、ふたりには窺い知れないほど大切な、学校生活の中で唯一と言っていいほどの親しいひととの触れ合いの時間だったのです。
だから、ひかりちゃんは、朝、この学園通りで、なぎほのに会えた日は、すごく安心して教室に入って行くことが出来たし、そうでなかった日は、えもいわれぬ寂しさや不安に襲われることもたびたびでした。
ところが、今朝は、新しく出来たふたりの友だちの後を追うため、なぎほのとこれ以上一緒にはいられないのです。
ひかりちゃんは、なぎほのにすごく申し訳ないような気持ちになっていました。
それでも、今のひかりちゃんの気持ちは、新しい友だちのほうへ若干強く傾いていて、奈緒美羽の待つ方向を目指すため、後ろ髪引かれる思いで、なぎほのに背を向けたのです。
ひかりちゃんは、心の中で<ごめんなさい>と叫んでいたに違いありません。
すると、ほのかが「ひかりさん」と呼び止めました。
「え?」と振り返るひかりちゃん。
ほのか「よかったね」
ほのかは、温かい日差しのような笑顔をひかりちゃんに浴びせました。
隣にいたなぎさも、ほのかの笑顔に何かを感じ、そちらを見ます。
なぎさも、ほのかと同じ思いを抱き、ひかりちゃんのほうへ向き返ると、強い光のような笑顔で、「うん!」とうなずきました。
なぎほののふたりは、自分を薄情だなんて思っていない、それどころか、新しい友だちが出来たことを、祝福してくれている。
ひかりちゃんは、なぎほのの笑顔から、そう直感しました。
ひかり「はいっ!」
ひかりちゃんは、ふたりにも増して光輝く笑顔で応えました。
もう誰に遠慮することもない。誰も否定しない。みんな認めてくれる。
わたしの、わたしの友だち!
ひかり「な~お~、み~う~、待ってえええ!!」
なぎさとほのかが、一瞬意外の感に打たれて、顔を見合わせます。ふたりにもう言葉はありません。
目と目でにっこり笑い合っているのです。
ふたりの先輩から優しい眼差しで見守られていることを、ひかりちゃんは、背中に感じたでしょうか。
それは、朝日の光の温かさと区別がつかなかったかもしれません。
でもそれは、ひかりちゃんを心地よく、前へ押し出してくれる力であったことには変わりないでしょう。
五月の快晴の空の光を一身に集めたような笑顔で、ひかりちゃんは、坂道を走って下りて行きます。
下では、新しい友だちの奈緒と美羽が、ひかりちゃんを待っています。
初めて名前を呼ばれた奈緒と美羽は、一体どんな顔をして待ってくれているでしょうか。
きっと、ひかりちゃんのこの太陽のような笑顔の光を浴びて、同じくらい光り輝く笑顔で、空と雲とひかりちゃんを同時に見上げているでしょう。
おしまい。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
【あとがき・九条袋小路】もご覧ください。