・ 目次 / 第13話「海の休日と休日の海」 (前のページ/次のページ) ・
アカネ「満潮のときと干潮のときの海面の高さにほとんど差がなくて、湖みたいな状態だって」
ゆとり「えッ? どういうことですか?」
美羽、ここぞとばかりに容喙して来る。
美羽「はいはい、ここは雪城ほのかさんに任せて、任せて」
奈緒、うんざりした顔で、
奈緒「あ〜あ、また始まるよおお〜」
しかし美羽は、奈緒のチャチャなど気にも留めず、講釈を始めたのである。
美羽「海はね、月と地球、両方の引力で引き合うせいで、海面が上昇したり、下がったりするんだよ。地球は一日に一回周って元に戻る間に、月から離れるときと近づくときが二回あるから、一日に満潮と干潮が必ず二回あって、その時間もきっかり決まってるの」
ひかりは、感心したような表情で、美羽を見つめる。
ひかり「haa・・・」
美羽、うんちくを出し終えると、アカネさんのほうへ向いて、
美羽「アカネさん、そうですよね?」
と同意と確認を求めた。
アカネさん、愛想良く、
アカネ「み〜う、よく知ってるね。まあ、そんなところだよ」
ゆとり「でも、どうしてそれとタコが関係あんです?」
さらに美羽、得意げに、
美羽「はいはい。それはね、海の生き物は、潮が流れてるとき動きが活発になって、お腹もすくんだけど、潮の動きが止まっちゃったら・・・」
美羽、朗読機械のようにそこまで言い終ると、ようやく事態の深刻さに気づいて、驚愕の表情に変り、
美羽「ええ〜ッ?! だけど、そんなことになったら、大変だよー!」
ひかり「どうしてなの?」
美羽「海の生き物たちにとって、潮の動きは、ひとにとっての新鮮な空気みたいなものだから、それが止まったら、タコもイカもエビも食欲なくなちゃって、そのうちみんな、、、死んじゃうんだよおお!」
奈緒、目を大きく開けて、
奈緒「うそ〜! じゃあもう二度とたこ焼き食べられないのおお〜!?」
美羽「そ」(ぶっきらぼうに)
奈緒は、ひとりオーバーリアクションを続ける。
奈緒「ああ〜! こんなことなら、お小遣い出し惜しみせずに、今月もっと食べに来とけばよかったよ〜」
美羽、呆れながら、
美羽「な〜お、そんな問題じゃなくってえ」
ゆとり、なおみ〜うの掛け合い漫才には参加せず(できず)、真顔で、
ゆとり「なんかの前触れ? 大地震とか・・・」
アカネさんは、みんなを安心させるように、笑顔をつくろい、
アカネ「ま〜あ、そう大げさに考えなくっても、一時的なものだと思うよ。海だってたまには休みたいんじゃない?」
奈緒はふて腐れたように、
奈緒「よりによって今日休むなんて、ありえなーあい、ジャン、・・・じゃん・・・はあ」
最後は溜息をついて、肩を落とした。
アカネさん、駄々っ子を宥めるように、大人の対応を示す。
アカネ「とにかく今日はお詫びに、お好み焼きの豚玉を、たこ焼きの値段で出したげるから」
奈緒、それを聞いて、急に顔をほころばせて、叫ぶ。
奈緒「え〜! ほんとっすか!? やったあああ〜! 300円得したー!」
美羽「な〜お、結局安ければなんでもよかったんじゃないの?」
奈緒、頭を撫でて恥ずかしがりながら、
奈緒「いやあ、そういうわけでもないんだけどさあ・・・今月のお小遣い、もうたこ焼き一皿分しか残ってなかったんだもん」
美羽「それって、つまり、今月もう十分にたこ焼き食べたってことじゃないの?」
奈緒「はは。そゆこと」
一同一様に笑う。
一同「はははは」
その夜。
雪城邸、ゆとり、さなえさんと食卓で夕食。
ゆとり、茶碗を置いて、元気よく、
ゆとり「ごちそーさまー!」
さなえ「いいえ、お粗末さまでした」
ゆとり「たまにはお野菜だけのおかずも、さっぱりしてていいですね」
さなえ「それを聞いて安心しましたよ。ここ数日、お魚が高いですからね。買おうにも買えなくて」
ゆとり、気遣うような笑みを浮かべ、
ゆとり「さなえおばあちゃん、そんなこと気にしないで」
ゆとり、食卓の上のTVのリモコンを取り、
ゆとり「さあ、テレビでも見よ!」(そう言って、ピッとTVを付ける)
すると、ちょうどニュースが映る。
アナウンサー『海の潮位に変動がなくなってもう一週間。漁獲量はすっかり落ち込み、魚介類の値段が高騰する中、それでも、各地のスーパーやデパートの鮮魚売り場では、わずかに残った魚を求めて主婦たちが長蛇の列をなしています』
ゆとり、無表情でTVの画面をじっと見つめる。
ゆとり「・・・」
その画面に、スーパーの長蛇の列が映し出される。
一匹の魚を得ようと群がる殺気立った主婦たちの顔。
鮮魚コーナーが、市場のセリのようである。
またスタジオのアナウンサーに戻って、
『海洋学者らによると、原因は今のところ不明とのことです』
さなえさんも、無言でニュースを見ていたが、やがてカチャッと食器類を持ってスックと立ち上がりながら、自分に言い聞かせるように、
さなえ「そのうち、時が解決してくれるでしょ」
そう呟くと、台所へと向かって行った。
それと相前後して、スワンフが囁くように、ゆとりの懐から、
スワンフ「ゆとり、ゆとりッ」
ゆとり「あっ!」
さなえさん、敏感に振り向く。
さなえ「ん?」
ゆとり、さなえさんにスワンフの存在がばれそうになり、あたふたして、
ゆとり「あああっと!」
さなえ「今、誰か、『ゆとり』って言いませんでしたか? ゆとりさんが自分の名前を呼ぶはずありませんよね」
ゆとり、大いに焦る。
ゆとり「ええっとお、ゆとり、ゆとりっと・・・そう、ゆとりを以って待ってればなんとかなりますよね」
さなえさんは、ゆとりの無理やりな言いつくろいに対して、それ以上追及せず、笑みを浮かべ、
さなえ「ほほほ、ええ、そうですよ」
そして台所へ去って行った。
ゆとり、さなえさんが完全に出て行ったのを見計らい、スワンフに囁きかける。
ゆとり「スワンフ、さなえおばあちゃんのいるところで声出しちゃだめでしょ」
スワンフ、気弱く申し訳なさそうに、
スワンフ「ごめんなのスワン。でも、海のことで気になることがあるのスワン」
ゆとり「えっ! 海のことで?」