・ 目次 / 第11話「盗まれた想い出」 (前のページ/次のページ) ・
なぎさ「・・・・・」
なぎさは、「それはね・・・」と切り出したところで、どういうわけか、言葉につまっってしまったのである。
感極まってのことではない。なぎさは、考え込んでいる。
そして、なぎさは、額に指を当てて、気難しげな表情で、
なぎさ「ウーン・・・」
と唸(うな)るしかなかった。
ひかりは訝しがり、
ひかり「なぎささん、どうしたんですか?」
なぎさ「あれえ・・・おっかしいなあ。思い出せない」
ひかゆと、絶叫。
ひかり&ゆとり「えええッ〜!!」
ゆとり、なぎさの困惑が伝播したような焦り顔で、
ゆとり「でも、それって、おふたりのとっても大切な思い出なんでしょ?」
なぎさ、困った表情のまま、
なぎさ「そうだよ。命の次に大切なくらいの! それなのに・・・」
再びなぎさ、気難しい顔になり、今度は腕を組んで、
なぎさ「うう〜んんん!」
そのとき、ひかりのポシェットのセインフが、矢庭に顔を出す。
セインフ「ひかり、気をつけるセイン!すぐ近くにナラクーダのヤツラが来てるセイン!」
ひかり「えっ!」
次にスワンフが、ゆとりのポシェットから顔を出し、恐怖の表情で、
スワンフ「もう、そこにいるのスワ〜〜ン!」
そのとき、3人の前に、一人の女が立ちはだかる。
それは、ナラクーダ第2の敵・ムージョ。
いでたちは、やはりニヒルーザやリバーサス同様、黒服ずくめで、「0(ゼロ)」の帽章が刺繍された三角帽子を被り、そしてやはりアイパッチをしている。
髪の色は黄金(こがね)色で、大部分、帽子に隠れて見えないが、実は長髪らしい。
色白、というより、青白く血色はよくない。唇も紫。
耳には、円錐状・五角形の赤透明の水晶風イアリングを垂らすシックな風情。
目は紫がかっており、切れ長でキレイ。
口は小さく、上品である。
声は色っぽい。
ムージョ「はじめまして。みなさん」
ニヤつくムージョ。
ひかり「あ、あなたは誰ですか?」
ひかりは、明らかに危険を感じ、あとじさりしながらも、ムージョに合わせるように、丁重に質問する。
ゆとり、ちょっと呆れて、
ゆとり「ひかり、見てわからないのっ? あの服、ナラクーダってやつらのだよ!」
ムージョ「よくおわかりですねえ。みなさんが楽しい思い出話に耽ってるものだから、つい邪魔しに来ちゃいました」
なぎさ「えっ、なんですって?」
ムージョ「あなたの思い出を消させていただいたのはこのわたしですのよ。時と戯れている人を見ると、すごくムカつくんですよね〜」
ひかり「なんてことを・・・なぎささんの大事な思い出なのに・・・お願いです。早く返してください!」
ひかり、目を潤ませながら、懇願する。
ムージョ、お茶目に笑んで、
ムージョ「いいですわよお」
ひかりの顔に、ナイーブにも笑みが。
ひかり「え・・・」
しかし、ムージョは、
ムージョ「その代わり、お嬢さんの持ってるそれをくださるかしら? ふふふ」
そう言いながら、セインフのコミューンを指さす。
ひかり「え? これを?」
ひかり、そう言うと、徐々にコミューンに手を伸ばして行く。
ムージョ、不敵に笑む。
ムージョ「ムフフフ」
コミューン内のセインフ、ひかりが、ムージョを信じて、自分を渡しかねないと感じて、焦りながら、
セインフ「ひかりっ! 渡しちゃダメだセイン」
ひかり、
ひかり「えっ!?」
と驚いて、ビクッと手を引っ込める。
セインフ、続ける。
セインフ「僕がヤツラの手に渡ったら、時が破壊されるから、なぎさの思い出だけじゃなく、あらゆる過去が消え去るセイン!」
ひかり「う、うん!」
ひかり、やっと事態を理解して、セインフのコミューンを手で覆ってガードした。
ムージョ、不敵に二ヤつき、
ムージョ「くださらないご様子ですわね!」
ひかり、キッとムージョを睨む。
ひかり「くっ・・・」
ムージョ、フフと笑んだあと、突如
ムージョ「ハアッ!」
そう叫んで、ズボンッ!と空砲をひかりに向け発射。
ひかり「キャアアア!」
なぎさ&ゆとり「ひかりッ!」
ひかり、吹き飛ばされる。そのとき同時に、ひかり、セインフのポシェットを手放し、セインフのコミューンは、クルクルと空中に投げ出されてしまう。
セインフ「アアア! 助けてセイ〜ン!」(セインフ、目を回しながら)
ムージョ「む!」
ムージョ、すかさずそれをゲットしにジャンプ。
しかし、一方それを見たなぎさが、ムージョに負けじとジャンプし、宙でセインフの取り合いに。
なぎさ「たあああ」
ムージョ「ん?」
間一髪で、なぎさがこれをパシッとゲットし、かっこよく着地。
ゆとり、指をパチッと鳴らし、歓喜の笑顔で、
ゆとり「やった! さっすがもとプリッキュア〜ア!」
しかし、向こうへ倒れこむひかりと、セインフコミューンを握ったなぎさのちょうど間に、ムージョがスタッと降り立ち、またしても不敵に微笑んで、なぎさのほうへゆっくりと歩を進め出した。
ムージョ「あなた、只者じゃなさそうですね。すばらしいジャンプ力でしたわよ。ふふふ」
なぎさを褒めながら、近づくムージョ。
なぎさ「くッ」
なぎさは、真剣な表情で、ムージョを警戒。
それを見たゆとり、スタスタスタッと、なぎさの横へ走り寄って、
ゆとり「なぎささん!」
なぎさ、正面のムージョを見ながら、腰を低めて身構え、左横にいるゆとりに、ポツリ、
なぎさ「ゆとり、やってみようか・・・」
ゆとり、キョトン顔で、なぎさを見る。
ゆとり「えっ?」
なぎさ「ふたりでプリキュアをッ!」
ゆとり「ええええーッ!!!」(ゆとり、吃驚の変顔)
しかしなぎさは真剣そのものの表情を保ったまま、どんどん近づくムージョを凝視しつつ、汗をかきかき、隣のゆとりに、
なぎさ「掛け声・・・」
ゆとり「え?」
なぎさ「掛け声、なんていうんだっけ? デュアル・オーロラ・ウェーブじゃなかったよね?」
ゆとり「デュ、デュアル・オーロラ・ウェーブ・・・??? なんですか、それ?」
なぎさ、真剣な顔で、徐々に接近するムージョを凝視しながら、
なぎさ「もとプリキュアの掛け声。意味は・・・あたしも知らない・・・」
ゆとり「はあ・・・」
ゆとり、脱力の変顔。
なぎさ「ゆとり、新しいプリキュアの掛け声を教えて!」
ゆとり「ツ、ツーショット・ハーモニック・レイディエーションですけど・・・」
なぎさ「え? ええ? ツーショット・ハーモニカレディーエージェント・・・?」
今度は、なぎさが混乱して変顔に。
ゆとり、呆れてさらに変顔になり、
ゆとり「いえ、ハーモニック・レイディエーションです」
なぎさ「わかった! ゆとり、行くよ!」
ゆとり「は、はいいッ!」(先輩には逆らえないといった無理やりな迎合の返事)
なぎさ&ゆとり「ツーショット・ハーモニック・レイディエーショ〜〜ん!」(なぎさ、不慣れでちょっとハーモニー崩れる)
そう言って、互いに互いのコミューンを向け合い、或るボタンを押す。
それを見たムージョ、大いに警戒し、歩みを止める。
ムージョ「むっ!!」
しかし、なぎゆとには、当然のことながら、何の変化も起こらない。
なぎさ、コミューンのボタンをカチカチと数回押し続け、
なぎさ「そりゃ無理だよね。はは・・・」
と、少し寂しげに苦笑い。
ゆとり「だから言わんこっちゃ・・・」(またちょっと呆れ顔)
これを見て、それまで警戒していたムージョも、「へ?」という感じで、一瞬気が抜け、両手がダランと下がる。
ムージョ「はあ・・・」
だが、なぎさは、その一瞬の隙を見逃さなかった。
なぎさの鋭い眼光が、ギラッと、ムージョの背後で弱々しく立ち上がったばかりのひかりの姿をズームアップして捉え、そして叫ぶ。
なぎさ「ひかりいいいい!」
ひかり、ハッとなってムージョの向こうのなぎさを見遣る(20mほどの間隔か)
ひかり「えっ!?」
すると、なぎさは、コミューンをひかりに向けて南無三と投じたのである。
なぎさは知っている。変身前のひかりは運動音痴であり、ちょっとでもコミューンが逸れれば、それを飛びついて取る芸当など持ち合わせてはいないということを。
ひかりに確実にコミューンを渡すには、ひかりの体にぶつかるほど正確に球筋(コミューン筋)をコントロールしなければならない。
ところが、ひかりとなぎさを結ぶ直線のど真ん中に、脱力したムージョが立ち尽くしていた。
したがって、なぎさの投げたコミューンボールが、ひかりの体にど真ん中で受け止められるには、野球で言えば三本間に挟まれた状態にあるムージョの顔面を直撃するコースを通らなければならないのである。
実際、野球では、ボールが走者に当たり、連係プレーが阻害されることがある。それと同じくらいのギャンブルだ。
しかも! 恐らく、万全の体勢のムージョならば、顔面にぶち当たる前に、軽く手で捕らえ、コミューンを我が物にするところであろう。ナラクーダの女最上級幹部・ムージョにとって、そのくらい、いとも容易いことである。
つまり、なぎさは、態々敵を利することになるやもしれぬ、というリスクをも冒すことになるのだ。
ところが、今、ムージョは戦意を殺がれていた。だからこそ、なぎさは、賭けた。文字通り乾坤一擲のこの一投に。二年間プリキュアを務めたことで得た勝負勘のすべてが、今ここに凝集されている。
そのなぎさが投げたコミューンは、ムージョの顔面に向けて、驚くべき速さで飛んで来たのである。コントロールには、寸分の狂いもない。なぎさは、なぎさのまま、一瞬人力を超えたのであろうか!?
他方、コミューン内のセインフは堪らない。宙で、激しく回転させられ、その上、敵にぶつかりそうになる恐怖で、思い切り叫ぶ。
セインフ「アアアアアアア〜!」
コミューンがムージョに肉薄。
ムージョは、完全に度肝を抜かれ、
ムージョ「うっ!」
さすがナラクーダのエリート戦士、反射神経は抜群なので、逆エビ風にのけぞると、文字通り間一髪、辛うじてそれをよけることが出来たのだった。
しかし、ムージョは、一瞬後、すなわち、自分のそばを通過後、それが目当てのコミューンだったことに気づき、後へ飛んで行くコミューンのほうへ振り向きざま、
ムージョ「なんと!」
と叫ぶ。
さて、コミューンは、全く速度を落とさず、今度はひかりの正面に向かって弾丸のように飛んで来た。
セインフ「アアアア! 目が回るセインンン〜!」
(繰り返すが)変身前のひかりは、全くの運動音痴だ。ひかり、変顔になって慌てふためき、
ひかり「アア〜アア!」
なぎさ「ひかりー! キャッチ!」
なぎさがそう言うのを聞いて、ようやくなぎさの意図を理解したゆとりも、なぎさからひかりのほうへ視線を慌しく移し、叫ぶ。
ゆとり「ひかりぃぃ?!こうして!」
ゆとり、そう叫びながら、両手で捕球するポーズを構える。
ひかり「えっ! こう!?」
ゆとりに教えられるがまま、ひかりが胸元近く、構えた両手の中に、吸い込まれるようにセインフのコミューンがバシッと突き刺さる。
ひかり、首を竦(すく)め、目を瞑りながらも、無意識のうちに、両手でそれを握り締めていた。
コミューンのセインフ、顔を出して、
セインフ「ひかりぃ〜、ありがとうセイン〜」
ひかり「わたし、・・・取ったの?」
ひかり、キョトン顔。
向こうのなぎゆとは、いち早く喜ぶ。
なぎゆと「やったあっ!」
ひかりもやがて、サアッと無邪気な喜びの笑顔に。
ひかり「わああ・・・!」
遠くから、なぎさが、指示。
なぎさ「ふたりとも、変身よ!」
ひかりとゆとり、それぞれ頷く。
ひかり「うん」
ゆとり「うん」