■ 第10話「アニメスタジオ見学」

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・第4幕

現場到着。
車を現場建物前の往来につけ、奈緒父、そのビルを見上げながら、
奈緒の父「ここだよ」
奈緒、美羽、ひかり、車内の窓からビルを見上げて、
三者「へえ・・・」
車道側で、一番ビルを見にくいゆとりは、ひかりの両肩を持って、ひかりにのしかかるように身を乗り出し、遅ればせに、
ゆとり「へえ・・・」(ゆとりの顔、大アップ)
ビルとスタジオの表札が映る(主にゆとり視線か)。
看板には「株式会社・泉堂アニメーション」とあり。

・第5幕

全員すでにビル内。古めかしいエレベーターの扉が開き、全員廊下を出ようとするところから。
エレベーター向かいの一室のドアの前で立ち止まると、奈緒の父がノック。スタッフの一人が現れる。この人が、担当の稲村氏である。
稲村「やあ、多幡さん」
(稲村氏のいでたち:歳の程は40台後半。身長175cmほどで、痩せ型。二重で、鼻筋が通っており、わりと男前の優男。唇は薄い。髪は短めに刈り上げている。髪の色は黒。服装は、グレーのスラックスに、白のワイシャツ。黒の革靴。社内だからか、ノータイで開襟。仕事中だったらしく、腕まくりしていた。本日は、早春なのに気温20度ほどもある暖かい日の真昼のためでもある)
奈緒父「お久しぶり。(4人に向かって)紹介しとくよ。今日、案内係を務めてくれる稲村さん。僕が新聞社にいた頃、何度か取材でお世話になってて、それ以来の付き合いなんだ。なんでも遠慮せずに聞いてくれ。ただし、中に入ったら、スタッフのみなさんは、仕事中なんだから、決して騒がないようにね」
一同「はい」
父、今度は稲村氏に向かって、
父「これが娘の奈緒」
と言いながら、奈緒の両肩を後ろからグイッと持つ。
奈緒、父を背後にして、安心しきった笑顔で、会釈。
奈緒「よろしくお願いしますっ」
父「そして、この子たちが、奈緒の友だちの、加賀山美羽ちゃん、早瀬ゆとりさん、九条ひかりさん」
美羽&ゆとり&ひかりも一斉に頭を下げて、
三者「よろしくお願いします」
稲村氏も、実に柔和な笑顔と声音で、
稲村「こちらこそ、よろしく。今日は、このスタジオまでよく来てくれましたね。それじゃあ、さっそく見学しに入りましょうか」
父「じゃあ、僕は、別室で社長さんとお話してるから、君たちは、稲村さんについて行ってくれる?」
ゆとり「え? 稲村さんが社長さんじゃないんですか?」
稲村「ははは、僕は一スタッフにすぎませんよ。ただ長く勤めてるだけで」
一同、キョトンとして、
四者「へえ」

・第6幕

スタジオ内。
デスクが並び、通路が狭い。
デスクワークするスタッフ数名が映る。
猫背のように前かがみになってカリカリ何か描き込んでいる者、アゴを擦りながらPC画面とにらめっこしている者など、各人めいめいの仕事に没頭し、静かである。
ひかゆとなおみ〜うは、物珍しそうにそれらを黙って眺めながら、稲村氏に付き従う。
稲村氏は、スタッフらの背後を通り過ぎ、或るスタッフの背後で止まる。
稲村「こちら、原画マンさんです」
ハチマキをした原画マン、ちょっと振り返って、笑顔で会釈すると、すぐまたデスクワークに戻る(こういう取材見学をされるのは、わりと慣れているようだ)。
ゆとり、稲村氏に、
ゆとり「原画ってなんですか?」
稲村氏、机の上の一枚の絵を手にして、みんなに見せながら、
稲村「これが原画。これはまだチャチャッと描いたデッサンの段階だけど、やがてこれに色を塗ったものをベースに、顔の表情の動きとかの、少しずつ違う中割りの動画が何枚も作られて行きます」
ゆとり「何枚って、何枚ですか?」
稲村氏、さらっと、
稲村「一秒分につき24枚」
ゆとり「そんなに!?」
稲村「うん。大体30分番組は、コマーシャルとか除けば、21分くらいだから、24×60×21で、・・・」
奈緒が、手の平を指でなぞってブツブツと、
奈緒「24×60×・・・ええっ? なんで60なの? ああ、一分60秒だからか。ええ〜、わけわかんない〜」
最後は混乱の表情。
他方、隣のひかり、たぶん、密かに暗算し、答えを算出したのだろう、一人内心驚いている。
ひかり「hoe・・・!」
稲村「・・・30240枚の動画が必要ってことになります。もっとも、実際には予算の都合とかで、十分の一の3000枚くらいに減らさないといけないので、それを、30000枚と同じような自然な動きに見せるのが、プロのテクニックなんですけどね」
奈緒、呆れ顔で、
奈緒「三万枚が三千枚に減るって言われても、全然減ってるように思えないないジャンジャン! 想像つかないよー。(美羽に向かって)ねー!」
美羽、唸るように深く頷く。
美羽「うんん〜」
稲村氏、続ける。
稲村「そして最後は、作画担当の人が、線や輪郭なんかを隅々まで入念にチェックして、やっと、みんながテレビで観るような動く絵が出来上がるんです」
ひかり「へえ」
稲村「最近では、着彩はコンピューターを使ってするようになりましたけど、それ以外は、今でも基本的に手作業ですね」
稲村氏、次に、隣の別のデスクから、また一枚紙を取り上げる。
稲村「これが、絵コンテ。こちらの演出担当の人が、大雑把に動きのイメージのレイアウトを描いて、これを参考に原画マン、動画マンが、綺麗に仕上げて行くんです」
奈緒「でも、これが、あのキレイな絵になるなんて想像できないよね」
奈緒が指差す着色前の絵コンテは、スケッチ風の女の子の絵。
美羽「そうだよね。(稲村氏に向かって)一つのお話を作るのに、どのくらい時間がかかるんですか?」
稲村「そうですね。30分の作品の場合、たっぷり2ヶ月以上。それも、すごい人数のスタッフがそれぞれの仕事を分担してだから、かなり気の長い作業ですね」
ゆとり、自嘲気味に、
ゆとり「わたしなんか、一枚描くのだって何時間もかかっちゃうよ。それも、猫一匹とか」
奈緒、イノセントな笑顔でツッコミ。
奈緒「しかも犬に見えちゃったりするんでしょ?」
ゆとり、笑顔で、
ゆとり「そうそう・・・(からかわれていることにハッと気づいて)ああ、奈緒!」
ひかりは、それらのやりとりを黙って微笑みながら見ていたが
ひかり「ふふ。(急に稲村氏に向かって)あの・・・」
稲村「はい?」
ひかり「どのくらい絵の勉強をしたら、アニメのお仕事に就けるんですか?」
稲村「それは人それぞれですね。(作業するスタッフを映しながら)もともと絵を描く趣味があって、描き慣れてる人は当然早いし、美術系の学校とかに行くのも近道かもしれません」
稲村氏の顔に戻って、
稲村「もちろん、センスってのもありますよ。けど、一番大事なのは、絵に心を込められるかどうかじゃないかな」
ひかり「絵に心を込める・・・」
稲村「好きこそものの上手なれって言うでしょ? それと一緒で、自分が描いた絵のファンになれるくらい、納得の行くいい絵を描こうと思って毎日努力すること、そしてそれを、楽しく感じられるかどうか、ですね」
ひかり「ho・・・」
ひかりが感心して言葉も出せないでいると、ゆとりは、快活な声で、
ゆとり「アタシ、稲村さんに絵を習いたいっ!」
奈緒、「え〜」という感じで呆れて、
奈緒「またゆとりは、すぐそうやって。無理なこと頼んじゃ失礼じゃん」
ひかり「でも」
ゆとり&奈緒「え?」
ふたり、一斉にひかりのほうへ振り返る。
ひかり、ふたりに注目され、ちょっと恥ずかしそうに気後れした後、思い切るように、
ひかり「わたしも、ちょっと教わりたい・・・かな」(テヘという感じで苦笑い:これが可愛い!)
奈緒は、まさかひかりがそんな欲求を持っているとは思わなかったのだろう。驚いて、ひっくり返りそうな素っ頓狂な声で、
奈緒「ひかりまでえ〜?」
しかし、稲村氏は、見学者にこういうわがままなリクエストをされることに、すでに慣れているのかもしれない。
段取りどおりといった余裕顔で、愛想良く、
稲村「よし、わかりました。せっかくここまで来てもらってるんだし、そのくらいのリクエストには応えなくちゃね」
ゆとり「ええ、いいんですか!?」
奈緒、今度は欣然として、バンザイポーズ。
奈緒「やったー!」
美羽、呆れ顔で奈緒を見て、
美羽「なんだ。案外一番してみたかったの、奈緒だったりして」
奈緒「へへ、実はそうだったりして」
こうして、絵を描く練習をするため、稲村氏は、ひかゆとなおみ〜うを自分のデスクへと先導して行くのであった。

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