■ 第8話「百人一首」

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美羽、歌の意味を教えてほしいという茶和子と小波美のリクエストを、余裕綽々のお姉さん顔で、気安く請合い、
美羽「あ、うん。えっと、ひかり、上(かみ)の句なんてんだっけ?」
ひかり、札も見ずに、すらすらと暗誦して回答に代える。
ひかり「千早ぶる神代も聞かず竜田川」
美羽「ああ、それそれ。えっとね、『ちはやぶる』・・ちはっていう女の人に約束を破られて、それから、『神代も聞かず』・・・神代って人にも言うことを聞いてもらえなかった竜田川っていうお相撲さんがね・・・『からくれない』、『からくれない』・・・えっと、時間ないから次いこ」(誤魔化す)

*三遊亭小円朝の落語「千早振る」より。多少アレンジ。
参照:フリー百科事典「Wikipedia」

茶和子&小波美「え〜」(説明を打ち切られて、純粋に「そりゃないよ〜」という感じ)
ひかり、美羽のデタラメな説明を敢えて指摘せず、軽く流す感じでひとりほくそえ笑む。
ひかり「ふふ」

奈緒「なんか楽しそうジャンジャン」
ゆとり「わたしたちも混ぜてよ」
奈緒・ゆとり、いつのまにかチャーハンを食べ終え、寄って来ていた。
美羽、振り返り、意外顔で、
美羽「あれ、奈緒、ゆとり、いたの?」
ゆとり「さっきからいたよ。よっぽど集中してたんだね」(普通の表情)
ひかり、奈緒ゆとりのほうへ向き、
ひかり「ひとりでも多いほうが楽しいから、よかったら参加して」
奈緒「だけど、こういうのって、畳の上で正座してするものじゃないの?なんかヘンな感じ」
美羽「な〜お、贅沢言わない」
ひかり「じゃ、次、詠みますね。あさぼらけありあけの月と見るまでに〜芳野の里にふれるしら雪〜」(玲瓏と朗詠)
みんな「ん〜」と唸りながら、テーブルの上を凝視。

・第9幕

第8幕の舞台。
カルタ進んで、奈緒、最後の一枚を取る。
奈緒「はいっ!」
札を読む「親」になっていたひかりが、珍しくみんなを仕切るように、
ひかり「じゃあ、みんな、自分の取った札を数えてください」
数え終わる。
美羽、一番多いことが判明。
美羽「わたし、32枚!」
ひかり、穏やかに、
ひかり「じゃあ、美羽の勝ち」
美羽「勝った〜!」
美羽、ピースサインで勝利を無邪気に喜ぶ。

・第10幕

第9幕と同じ舞台。
美羽の勝利でいったん試合ストップ。
次の試合をどうするかの話し合いになっている。

ゆとりが、積極的に口を開き、ひかりに向かって、
ゆとり「ひかりも読んでばかりいないで、参加しなよ。アタシが代わりに読んであげるから」
美羽「そうだよ。ひかりは、3分の2以上暗記してるらしいから、きっとすごいよ」
ゆとり「へえ〜」
ゆとり、まっさきに驚嘆。
ひかり「じゃあちょっと」
ひかり、そう言うと、読み札をテーブルの上に置いて、参加の構え。

・第11幕

また取り札を広げて、カルタを始める。
すでに、ゆとりが親となって読み札を握り、読み始める。
ゆとり「めぐり逢ひて・・・」(リズムなく単調に)
ひかり「はい(押さえ手で優しげに取る。二本の指先を滑らせるように札の上に軽く載せ、テーブルを叩く音がほとんどしない感じ)
ゆとり「え?もう?」
ひかり、取った札を読む。
ひかり「雲隠れにし〜夜半の〜月かな〜」(抑揚をつけて朗詠)
ゆとり、手にした読み札をたどたどしげに読んで、確認してみる。
ゆとり「えっとお、めぐり逢ひて・・・見・し・やそ・れ共分ぬまに・・・雲隠れにし夜半の月かな。正解。すご〜い」
ゆとり、ひかりのほうへ向いてポカンとした顔で驚く。
美羽「イントロクイズみたい」
奈緒「やっぱひかりは、かけ離れてるね」
美羽、奈緒は、ストレートにひかりの所業に驚いたり、褒め称えたりしているのに、
ゆとりだけは黙っている。
しかしゆとり、ひかりを仰天の目でじっと見つめていて、一番驚いている様子だった。
ゆとり、そのあと、黙ったまま、何かに納得したように少し微笑む。

そのときゆとりの懐でスワンフが、不意にゆとりに囁きかけて来た。
スワンフ「ゆとり、ゆとり」
ゆとり「あ、(みんなに向かって)、ちょ、ちょっと待ってて」(席をはずし、廊下へ走る)
ゆとり「スワンフ、どうしたの?せっかく盛り上がってたのに」
スワンフ「いやな感じがするのスワン」
ゆとり「え?それってまさか・・・」

背後からひかりもセインフを伴って出て来る。
ひかり「ゆとりさん」
ゆとり、ひかりのほうへ振り返る。
ゆとり「ひかり!」
ひかり、深刻ぶった表情で、
ひかり「みんなが・・・」
ひかり、そう言って、ゆとりに、教室内を見るように暗に促す。
ゆとり、促されるままに、家庭科室を覗いてみると、全員動きが止まってる。
家庭科室の時計も止まっている。
ゆとり「これって、まさかまた・・・?」
ゆとり、不安なことを予期する表情になる。

そのとき、突然教室内につむじ風が生じる。
そして、それはそのまま百人一首の箱に憑依。
つむじ風の正体は、ムカツキーである。
ムカツキーに憑依された百人一首の箱は、そのままつむじ風の中にすべて吸い込まれ、
冬の枯葉のようにしばらく旋回したあと、そのまま窓の外へ。
ムカツキー「ムカツキー!
ひかり&ゆとり「あああ!」
驚いたひかりとゆとり、運動場のほうへ走る。

・第12幕

運動場。
朱塗りの箱ムカツキーを前に、ひかりとゆとりが対峙の場面となる。

ムカツキー、咆哮。
ムカツキー「ムカツキー!」
ひかり「百人一首の箱が・・・」
ゆとり「どうしてムカツキーがあの箱に?」

そのとき、タイミングを計ったように、飄然と地上に降り立つリバーサス。
リバーサス「ははは。教えてやろう」
ひかり「あ、あなたは」
リバーサス「あの箱には過ぎ去った時の遺物がぎっしりと詰まっている。ムカツキーはそのようなものに取り憑き、破壊する」
ゆとり「破壊する、ですって!?」
リバーサス「そうだ。われらナラクーダは、時の流れに乗せて過去・現在・未来をつなぐものを、最も忌み嫌う」
ひかり「あの箱は、わたしが借りている大切な百人一首の箱なんです。返してください!」
ひかり、珍しく強い口調で催促。
しかし、リバーサスはひかりの渾身の訴えを歯牙にもかけない様子で、愚弄するように、
リバーサス「ふふ。いつまでも、消えてしまった過去の遺物にこだわるときびとの庭の弱い生き物たち。実に見苦しい存在だ」
リバーサス、最後ははき捨てるように言い切る。
ひかり、断言口調のリバーサスに圧倒され、少々怯えながらも、
ひかり「そんなことはありません。昔の人の残した美しい感性は、今でも生き続けています」
と、かろうじて反論。
リバーサス「しかし、ほうっておけばいつでも消えてしまうぞ」
ひかり「確かにそうです。でも、でも、だからこそ、今の時を生きているわたしたちが、それを受け継いで、守って、そして未来の時に繋げていかなくちゃいけないんです」
リバーサス「ふん、それが弱さだと言っているのだ。そんな移ろいやすいものに美を求めてどうする?そんなものは、我らがキャプテン・ニヒルーザの求める全くの無の究極美の前では、醜いゴミにひとしい」
ひかり、目をウルウルさせ、泣きそうになりながら、
ひかり「そんなあ・・・」

ゆとり、ひかりのショックを受けた様子をしばらくジッと見たあと、決然とした表情になり、リバーサスに対して、
ゆとり「ちょっと、あなたひどいじゃない!」
リバーサス「ん?」
ゆとり「この子が大切にしてるものをゴミだなんてッ!」
リバーサス、ニヒルに笑んで、
リバーサス「ふ、事実を教えたまでだが」
ひかり、ショックで声も出ない。今にも泣きそうな訴えるような目で、リバーサスを見つめる。敵意は感じさせない。
他方ゆとり、怒りの表情で猛然とリバーサスに反論。
ゆとり「それに、全くの無のどこが美しいのよ!毎日いろんなことが起こって、泣いたり笑ったり怒ったり喜んだりすることのどこがいけないの!?」
リバーサス「ふ」
リバーサスは、相変わらず余裕でニヒルな笑いを浮かべ、理が、まだ自分たちのがわにあることを微塵も疑わない様子である。

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