・ 目次 / 第7話「海洋博物館」 (前のページ/次のページ) ・
夜、ひかりの部屋。
ひかり、すでに風呂上りでパジャマ。机に腰掛けて、本を読んでいる。
やがてその本を机の上に置いて、次に、机の抽斗(ひきだし)を開ける。
ひかり、そこから漆塗りの箱を取り出す。それは、前回雪城邸の蔵内にて見つけた百人一首の箱。
ひかり、その箱の蓋をパカッと開けて、百人一首の上のほうの札を取り出し、眺めている。金箔の枠がキレイに光る。
そこへセインフが横から顔を出して、話しかける。
セインフ「ひかりは、小説とか詩とかが本当に好きだセイン」
ひかり、セインフのほうを見下ろすと、
ひかり「ふふ」
と微笑んで、
ひかり「うん。私がこの世界に急に現れて何もわからなかった頃、本当に不安だったの。だから、いろんなことを知らなくちゃと思って本を読み出したら、いつのまにか楽しくなっちゃって」
セインフ「それで、今度は百人一首かセイン。ゆとりよりひかりがあのお屋敷に住んだほうがいいんじゃないのかセイン?」
ひかり、困り顔で笑んで、
ひかり「セインフ、そんなこと言っちゃだめよ。ゆとりさんだって、一所懸命新しい場所での暮らしに馴染もうとがんばっているのに」
セインフ、舌を出して、
セインフ「ゴメンセイン」
ひかり、ニッコリ笑う。
ひかり「ふふ」
ひかり、机の前に向き直り、回想。
<ゆとりさんに誘われて、ほのかさんのおばあちゃんのおうちで日本舞踊を習ったんだけど、踊るのがあんなに難しいことだなんて思わなかった。でも、奈緒や美羽も一緒に楽しんで、すごくいい一日だったな。蔵の中でゆとりさんと浴衣を探してたら、またナラクーダのひとたちに襲われたりしたけど、そこで、この百人一首の箱も見つけられたんだし、虎穴に入らないと虎の子を得られないって、こういうことを言うのかしら>
そのように回想しながら、ひかり、百人一首の或る札を、大切そうに眺めている。
そこへひかるがドアをノック。
ひかる「お姉ちゃん」
ひかり「あ、はい」
ひかる、入って来る。やはりパジャマ姿。白と水色のストライプ上下。
ひかる、ドアノブに手をかけたまま、ひかりのほうをジッと見た後、矢庭に歩き出しながら、
ひかる「何持ってるの?トランプ?」
そこへセインフ、口を挿む。
セインフ「なんでもすぐ遊びに結びつけたがるひかるの考えそうなことだセイン。これは百人一首っていうもっと高尚なものなんだセイン」
ひかる「百人一首?セインフは何のことだかわかるの?」
セインフ、ちょっとたじろいで、
セインフ「な、なにかってセイン?まあ、とにかく、遊び半分でするものじゃないセイン」
ひかる、意地悪い笑い顔で、
ひかる「わかってなさそうだね」
ひかり「ふふ。そんなに難しく考えなくてもいいのよ。ときびとの庭に古くからある昔ながらのカルタ遊びよ」
ひかる「へえ」
ひかり「それで、ひかるちゃん、なあに?」
ひかる「お姉ちゃん、あさっての日曜日、海洋博物館に連れてってくれるんだよね」
ひかり、笑顔で、囁くように、
ひかり「ええ」
ひかる「アカネさんのお店手伝わなくて大丈夫なの?」
ひかり、目を細めて、
ひかり「あなたはそんなこと心配しなくていいのよ。本当は、アカネさんが、あなたを連れて行きたがってたんだけど、お店があるし。それで、わたしがひかるちゃんとふたりで行くことになったんだから。一番喜んでるのは、アカネさんなのよ」
ひかる、欣喜して、
ひかる「やったア!じゃあ、約束だよ。お姉ちゃん、おやすみ」
ひかる、走るようにドアのほうへ戻って行く。
ひかり、ドアを閉めかかるひかるを見ながら、優しい笑顔で、
ひかり「うん、おやすみ」
ウォッチコミューン。
ゆとり「3時のおやつだ!」
スワンフ「「ふあああ! 3時は3時でも、夜中の3時なのスワ~ン」
スワンフが、正しい時間を教えてくれる。
ウォッチコミューン!
アカネさんのアパートのドアが開く。普通のコーポかハイツのドアタイプ。
制服を着たひかりとひかるが出て来る。
その後ろから、アカネさんも現れ、
アカネ「じゃあひかり、アタシ、今日出発前にすることあるから、若葉台まで車で送れないけど、途中までひかるのこと、お願いね」
ひかり「はいっ。アカネさん、行って来ます」
ひかる「行って来ま~す!」
アカネ、部屋の中から、
アカネ「ああ、気をつけて。いってらっしゃい!」
路上。
ひかりとひかる、手をつないで歩いている。
ひかるは黒のランドセル。
ひかるが、ひかりの手をつかんで、前後にブラブラ揺らしている感じ。
ひかる「あ~、早く明日にならないかなあ~」
ひかり「ふふ」
ひかり、そう微笑んだ後、少し考えて、
ひかり「ねえ、ひかるちゃん。明日、お姉ちゃんのお友だちが一緒に来てもいい?」
ひかる「え、いいよ。いつものふたりのお姉ちゃん?」
ひかり、笑んで、頷く。
ひかり「そうよ。ひかるちゃん、ふたりとも好きでしょ?」
ひかる、ニッコリ笑って、
ひかる「うん!好き」
やがて、小学校が見えるところまで来る。
ひかり「じゃあ、ひかるちゃん。わたしはこっちに行くから、ここでバイバイね」
ひかる「お姉ちゃん、ありがと」
ひかり「ふふ。しっかりお勉強するのよ。明日はいいことが待ってるんだから」
ひかる、元気な笑顔で、
ひかる「うん!じゃ、お姉ちゃん、バイバ~イ!」
ひかる、そう言って手を振ると、校門のほうへ駆けて行った。
ひかりは、ひかるが見えなくなるまで見送ると、笑顔でくるっと向き直り、両手にカバンを提げて持って、歩き出した。
ベローネ学院。
校舎が映る。
二年桃組教室の休み時間。
ひかりの席の前に、なおみ~うが後ろ向きに腰掛けて話し込んでいる。
奈緒「ええ、海洋博物館?」
ひかり「うん、明日弟を連れて行くんだけど、みんなで行ったらもっと楽しいかなって思って」
美羽「どんなとこなの?」
ひかり「私も初めてなんだけど、船の模型とか海の生き物の化石とか標本とかが展示されてるんですって。一緒にどうかな?」(愛想良く)
美羽、申し訳なさそうに奈緒を見遣る。
美羽「うん、それがさあ」
奈緒、美羽から話を振られ、美羽を見てコクッと頷くと、ひかりのほうへ向いて、ふたりを代表するように、
奈緒「あたしたち、明日朝から塾の模擬テストがあるんだよね」
ひかり、ちょっと思い出してハッとなったように、
ひかり「あ、そうかっ。ふたりは同じ塾に通ってるんだっけ」
美羽、普通に笑って、
美羽「うん、小学校のときから」
ひかり、気遣いのある笑顔で、
ひかり「そっかあ。じゃあムリよね」
奈緒、本当に申し訳なさそうに笑んで、
奈緒「ゴメンね、ひかり」
そのとき、奈緒美羽の後ろをゆとりが通りかかる。ひかりたちの話に聞き耳を立てていて、いかにも中に入りたい感じ。
ひかり、それに気づいて、ゆとりに声をかける。
ひかり「あ、ゆとりさん」
ゆとり「え?」(ちょっとわざとらしく)
ひかり「明日、何か用事ありますか?」
ゆとり「ん~」
と一瞬わざとらしく考え込むふりをしたあと、ニッコリして、
ゆとり「別にないよ」
でも、心の中ではちょっと不服そうに、
ゆとり<アタシって、奈緒と美羽の代わり?でもまあしょうがないかあ。彼女たちとの付き合いは、アタシとの付き合いなんかより全然時間の長さが違うんだし。気長に行こう。気長に>
第7話「海洋博物館」!(ひかゆとの声で)
著:ヒカルミの世界 / 絵:ヒカルミの世界・ラピー・shimizu_piecelot / 編:ライネス