・ 目次 / 第5話「ショッピング」 (前のページ/次のページ) ・
(前回までのあらすじ: スワンフがセインフに会いたがっているという口実のもとに、ゆとりは、ひかりを街に呼び出し、そのまま街案内を頼む。
ひかりの街案内がさっそく始まる)
街をウィンドウショッピングの諸シーン(軽快なBGMでワンシーンとしてつなげる)。
ファンシーグッズの店。
ゆとり、ストラップの備品など見て、無邪気に
ゆとり「か〜わいいい!」
ひかりは、ガラス細工の魚や動物に興味を示す。
ひかり「キレイ・・・」
ぬいぐるみの店。
ゆとり、テディベアみたなぬいぐるみを両手で持って、眺めて、
ゆとり「ほし〜い!」
と言ったあと、手にしたスワンフを見下ろして(註:ショッピング中、人目につかないところでは、ひかりとゆとりは、大体ずっとセインフ・スワンフを手に持って歩いている)、
ボソリ、
ゆとり「でも、この子がいるしなあ」
スワンフ、ちょっとふくれて、
「スワンフはぬいぐるみじゃないのスワン」
ゆとり「ああ、ゴメンゴメン。どっちも同じくらい可愛いから、つい、ね!」
スワンフ「え、可愛いのスワン?」(単純に喜ぶ)
ひかり、すぐそばでゆとりとスワンフの会話を微笑みながら聞いたあと、手元のセインフを見下ろして、
ひかり「ふふ。ねえ、セインフ。ゆとりさんが、スワンフのこと可愛いって」
しかしセインフはまだ落ち込んでいる。
セインフ「可愛くても、ただの友だちじゃしょうがないセイン」
ひかり「まだ言ってる」(ちょっと失笑気味に)
セインフ以外みんな「はははは」
帽子屋。
ゆとりが或る帽子を選んでいる。ひかりは、ゆとりに付き従っているだけで、自分から帽子に積極的に手を出すことはしない。
ゆとり、やがて赤と黄色のストライプのキャスケットを選ぶ。
ゆとり「ん〜、これかな」
ひかり「へえ、ゆとりさん、似合いそう」
ところがゆとり、それをすかさずひかりの頭にパカッとかぶせる。
ゆとり「やっ!」
ひかり「え?」(ゆとりのなすがままにされ、キョトンとして)
ゆとり「ひかりに似合いそうなの探してたんだよ」
ひかり「わたし?」
ゆとり「さ、さ、鏡の前行って」(せかすように両肩を押して)
ひかり「え、ええ?」
姿見の前。
キャスケット姿のひかり、鏡に映る。
ひかり「あっ・・・」(ひかり、自分の見違える姿に内心ドキッとしているよう)
ゆとり「やっぱ似合う!」
ひかり、恥ずかしがりながら、
ひかり「ど、どうも・・・」
そう言ってお辞儀したとたん、浅く被っていただけのキャスケットがポロッと頭から落ちかかる。
ひかり「ああッ〜!」
ひかり、落ちる帽子を取ろうとするも、お手玉するように、両手がバタバタする。
結局こぼして、下に落ちる・・・寸前、ゆとりがパシッと片手取り。
ゆとり「へへへ〜」(床に片膝つかせながら余裕の笑顔で)
ひかり、恐縮して、
ひかり「すみません!」
ゆとり「いいの、いいの、ひかりもそのうち慣れて来るって」
ゆとり、そう言うなり、今度は自分がキャスケットを被ってみせる。
スパッと頭に入り、すごく決まって見える。
ひかり、感心するように、
ひかり「はあ〜・・・」
古本屋。
ひかり、小説を黙々と立ち読み。
ゆとり、漫画を物色。しかし、ビニールに入っていて、開けない。
ゆとり「ちぇ〜、つまんないの〜」
と言って、本棚に返す。
ひかりとゆとり、往来を歩く。
前方、路上のちょっとした広場に人垣。
近づくと、大道芸人のショーが催されている。
ひかりとゆとりも足を止めて見物。
独りで5つの楽器を演奏する太っちょのミュージシャン。
次に、ピエロが顎に、ヤカンを乗せたスティックを乗せて平均台を渡る芸。
ひかりとゆとり、すごい芸を見るたびに、感嘆の声。
ひかり&ゆとり「わあ!」「すご〜い!」
ゆとり、ひかりのほうへ振り返って、
ゆとり「なんであんなことできるの〜?」
ひかり「ねえ」(笑顔で相槌)
さらに難易度の高い曲芸を見て、
ゆとり「アンビリーバブル!」
ひかり「ですね〜」etc.
最後に、唐傘に物を載せてグルグル回す芸人登場(染めの助・染め太郎みたいな風采)。
まずお手玉一個を回している。
ゆとり「あ、アタシ、これなら出来るかも!」
ひかり「でも、見た目よりずっと難しいんじゃないでしょうか」
ゆとり「そうかなあ・・・」(ゆとり、野心たっぷりの目で唐傘回し芸を凝視)
芸はすでに、Tシャツのスタッフを相方に、お手玉同時に3つ回し、そして瓶やヤカン回しにまで進んでいる。
芸人「はッ、やッ! もういっちょ、こんど〜は、そのへんのカドカドしたもん、行ってみましょかああ」(傘を回しながら、スタッフに指示する芸達者ぶり)
スタッフ「じゃあ・・・このCDラジカセでも・・・」(曲芸の伴奏BGMを流しているラジカセを取ろうとする)
芸人、傘の上でヤカンを回し、上をずっと見ながら、
芸人「ちょ、ちょっと待ったああ〜。ラジカセだめ、ラジカセは〜。傘破れちゃうよ〜」
スタッフ、空をわざとらしく見上げて
スタッフ「でも、今日は雨、降りそうもありませんけど?」
芸人、苦笑いして叫ぶ。
芸人「そ、そんな問題じゃなくってさ!」
芸人とスタッフ、曲芸しながらの掛け合い漫才まで披露して、群集を笑わせる。
ひかりとゆとりも笑っている。
ひかり&ゆとり「ははは、ははは」
ひかりのポシェットから顔を出したセインフが、そのまま翼を広げてパタパタ飛び出し、
ひかり、一瞬宙を見上げて驚いたあと、こちらへ振り向き、ニッコリ。
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画面の向こうから翼を広げて飛んで来たスワンフ。ゆとり、俊足で追いつき、ステップジャンプして、スワンフの足をつかみ、宙に浮く。ゆとりにっこりサクセスのピース。その直後に、スワンフの足から手を滑らせ、落ちそうになり、慌てふためく表情。
大道芸が終わり、片づけが始まっている。
見物客はみな帰ったが、ゆとりとひかりだけが残っている。
ゆとりが、やおら唐傘芸人風のおじさん(染めの助風)に近づいて声をかける。
芸人は、傘を畳んでいるところ。
ゆとり「あの〜」
芸人「ん? ああ、ずっと見てくれてたお嬢ちゃんだね」(柔和かつ穏やかに。芸中のボケキャラとはだいぶ雰囲気が違う)
ゆとり、快活な笑顔で、
ゆとり「ええ。すごく楽しくてずっと見てたら、アタシもしてみたくなっちゃって」
芸人、物を段ボール箱に仕舞いながら、ゆとりの顔を見ずに、
芸人「そうかい・・・」
ゆとり「アタシにちょっとさせてもらえますか?」
芸人、再びゆとりの顔を見上げ、穏やかに、
芸人「ん? う〜ん、興味を持ってくれるのは嬉しいけど、これはそんなすぐに出来る芸じゃないんだよ」
ゆとり、変らず前向きな笑顔で、
ゆとり「でも、やってみたいんです」
芸人、ゆとりの屈託のなさに好感を覚えたか、やっとくだけて、
芸人「ははは。好奇心旺盛だね。じゃあちょっとだけやってみるかい」
そう言って、ちょうど仕舞いかけていた唐傘をゆとりに差し出す。
ゆとり「あ、ありがとうございます」(唐傘を広げながら)
芸人「ほれ」
芸人、今度は懐からお手玉を一個取り出して、ひょいとひかりに下手投げで渡す。
ひかり驚く。
ひかり「えっ!」
ひかり、「アワワ」と文字通りお手玉しながら、辛うじてそれをつかみ、キョトン顔で、
ひかり「わ、わたしもですか?」
芸人「ふたりは友だちなんだろ?」
ゆとり&ひかり「え・・」(『友だち』という言葉がひっかかった感じ)
芸人「こういうのは息の合った仲良し同士でするのが一番いいんだ」
ひかりとゆとり、黙って顔を見合わせる。
ひかり&ゆとり「仲良し・・・」
曲芸開始。
ひかりとゆとり、広場で対峙。
ひかりがお手玉を投げて、ゆとりが傘を回す。
ひかり「はいっ!」
ゆとり「えいッ!」
でも全然無理。
ひかり「行きますう!」
ゆとり「ああ〜」
何度やっても、お手玉はあさってのほうへ弾き出される。
今度は、ゆとりが球を投げて、ひかりが唐傘回し。
ゆとり「ほいッ」
ひかり「はいぃ! あああ」
ひかりはもっとひどい失敗の連続。そもそも傘をまともに回せない。
何度やっても進歩がないので、ひかり、ヘナヘナ顔に。
ひかり「へああ・・・」
ゆとり、ひかりの失態と意外な変顔を見て、ケラケラ笑う。
ゆとり「あははははっ」
やがてゆとり、諦めて、傘を畳み、芸人に返す。
ゆとり「ありがとうございました。やっぱりダメでした」(汗を拭き吹き、さっぱりした笑顔で)
芸人「ははは。そりゃそうさね。俺だって今の芸の域に達するのに30年かかってるんだよ」
ひかり&ゆとり「30年!?」
芸人「いやいや、驚くこたあない。あのピエロとか、楽器弾きもみんなそのくらいは稽古して来た仲間さね」(休憩中のピエロや楽器弾きが映る)
ひかり「でも、途中でいやになったりしませんでした?」
芸人「そりゃあ何度もあるさ。でもね、何事も時間をかけて辛抱強く続けるってことが大切なんだよ。それに、今日始めて明日にはもう出来るようになったら、面白くないだろ?究めるのに時間がかかる難しい芸だからこそ、やり甲斐があるってもんじゃないか」
ひかり&ゆとり「はあ」(ポカン顔で)
芸人「もちろん、なかなか上達しないときは、焦ったりしたよ」
芸人が昔、芸でしくじったときの様子が映る。
芸人「芸暦10年目くらいの頃かな、本番でえらいしくじっちゃってさ、俺はこの10年何して来たんだろうなんて思って、虚しい気分になっちゃったよ」(落ち込んでいる彼の回想シーン)
芸人「(今の彼の顔アップに戻って)でもね、そこでやめたら、それまでの10年が本当に無駄になっちまう。そうならないためには、前に進むしかないんだな。前に進むから、過去の積み重ねが未来に繋がるのさ」
ゆとり「芸って深いんですね」
芸人「いやいや、芸事だけじゃないよ。何でもある程度気長に根気良く、時の流れに身を任せて、一瞬一瞬、一日一日と仲良く付き合って行かなきゃあ、答えは出ないんじゃないかな」
ひかりとゆとり、「はあ」と嘆息しながら聞きほれている。
ひかりとゆとり、お礼を言って芸人に別れを告げる。
ひかり&ゆとり「ありがとうございました」
芸人「おお、またいつでも遊びに来な。ほれ、これあげるよ」
芸人、そう言って、懐のお手玉を一個、ひかりに投げ渡す。
今度は、ひかり、両手で上手にパシッと受け取る。
ひかり「これは・・・?」
芸人、ほがらかに、
芸人「よく見てみな。ところどころ、縫い合わせた跡があるだろ?」
ゆとり、ひかりの手の中のお手玉を覗き込んで、
ゆとり「あ、ホントだ。ボロボロだ」
芸人「そのお手玉との付き合いは、さすがに30年とは行かないが、もう相当な長さになるからね。愛着もあるし、破れても捨てずに、カミサンに頼んで縫ってもらってるんだよ」
ひかり「へえ・・・」
ひかり、感心してお手玉をまじまじと見ている。
芸人「いわば俺の修行した時間が、その中にぎっしり詰まってるって感じだ。記念に一個あげるよ」
ひかり「え、でもそんな大切なものを・・・」
芸人、笑って、
芸人「あはは、でも、キミらにゃ、ゴミみたいにしか見えないだろ?」
ひかり「いえ、そんな・・・」
芸人「いいって、いいって。本当なら捨てるようなものなんだから。でも、そのうちキミらにも、そのお手玉の重みがわかるようになるよ・・・いや、なってほしい、だな」
ひかり「このお手玉の重み・・・?」(両手で支えながら)
ひかりとゆとり、送迎バンに乗って帰って行く芸人一座を見送る。
普通のワイシャツに着替えた例の唐傘芸人、助手席の窓から、
芸人「じゃあな」
ひかり、淑やかに頭を下げる。
ゆとりは、手を振りながら、
ゆとり「さよ〜なら〜!」
ひかりとゆとりは、向こうへ遠のいて行くバンを、見えなくなるまでしばらく見送り、やがて、
ふたり顔を見合わせて微笑むと、こちらへ向き直り、ゆっくりと歩み出すのだった。